[1]CO-CO'S BLUES―――
油井正一氏が常日頃書いておられる様に、日本のジャズファンの耳はとてもすばらしいと思うが、一面それだけに厳しいとも言える。その一例が和田直のデビューLP“CO-CO'S BLUES”に対する反響にはっきりと現れている。
たまたまこのLPが発売された折スイング・ジャーナル誌でのレコードレヴューは何の因果か、私の所に回って来たのだが後で触れる様に和田直との個人的交流は長いし言ってみれば弟の様に可愛いがっているつもりだ。といって私情をまじえる訳にはゆかないから率直な感想を述べると同時に、一方やはり遠慮がちの評価をしたのだった。内心では沢山売れてくれる事を祈ってはいたが−。
私の危惧は和田直の実力については何の心配もないが何と言っても活動範囲が名古屋に限られているために知名度の低さという点だったのは言う迄もない。所がいざ発売されると、たとえ爆発的ではないにしろ実に着実にそして広く全国的に売り上げが伸びて行ったという。これは単なる名前よりも内容の良さを認めたジャズファン自身の判断の確かさを証明する事に他ならない。まったく嬉しい事であり同時に全国各地でローカルミュージシャンとして地道に努力を重ねている人達に対して何よりも励みになった事だろうと思うのだ。その上、和田直は勿論この吹込みに参加した無名のトランペッター信貴動次もその暖い音色とプレイを高く買われてその後の読考投票で一躍上位に位置する事になったのだった。
そこで今一度この作品がどうしてそんなに沢山の人たちから愛される様になったのかを考えてみても無駄ではなかろう。御承知の様にこのレコードは全編ブルースだ。という事はジャズが如何に多様化し、一部難解な程尖鋭化してもジャズのルーツとも言うべき「ブルース演奏」が如何に求められているかの実証ではなかろうか。次にここでのサイドメンの選出がまことに当を得ていた点を挙げたい。信貴については既に述べたが、アルトの森剣治はどちらかといえば高柳昌行とのニューデレクションの仕事で認められた男であり、前衛派としてとらえられている。然し実際には長くC.パーカーを追求し続けたアルト奏者であり、そのスタイルを脱却して現在の自己の感覚のままにアドリブしているがその斬新なフレーズはブルースという形態に現代的な生命を与えることに成功したと言えるのではないか。以下本田、古野、倉田等についてはつけ加える事もあるまい。何れも若くJ.コルトレーン以后のジャズに共鳴してこの世界に入った人材ながらジャズの心を良く把握して「新しいブルース感覚」を立派に表現して見せたと言ってよい。
こうした条件に恵まれたもののこれを現実にレコード化したのは、TBMレコードの藤井氏の英断であり日本のジャズの「知られざる断面」を着実にとらえ続けている製作姿勢と共に高く評価せねばなるまい。
ともあれこうした背景の下に和田直は先程第二回のレコーディングのチャンスを得たのであり今一度彼の真価が問われる事になったのがこの作品である。
いささか固い話が続いてしまったが以下、和田直をめぐる人間環境などに触れながら彼の音楽生活を探って見る事にしょう。