再び「オマサン」をめぐって―――
[1]「ブロー・アップ」が「日本ジャズ賞」に輝いた時。
或る程度は期待と予測を持っていたものの前作「ブロー・アップ」が現実に73年度の「ジャズディスク大賞」の内「日本ジャズ賞」を見事獲得したという知らせを聞いた時は、正直な所一寸ばかり、びっくりしたものだ。
この投票結果には何分の一かの責任を持っている私だか、正式な決定を知るのは皆様と全く同じで、S.J.誌が店頭に出た時なのだ。だから「どんな風になるのかなあ」と、いくらか興味本位も手伝いながら、発売を待っているという事になる。所が今回はそれより少し早く「オマサン」自身から、電話でその報せを受けたのだった。その時の会話は、こんな風だった筈だ。
「モシモシお蔭様で『ブロー・アップ』がディスク大賞を貰いました。自分でも何か信じられんのですけれど――」
大体この種の賞には縁のなさそうな男だし、それ以上に、一見超然としている感なきにしもあらずだから、その素直な喜び様にこちらが反ってどぎまぎしてしまって。
「へー?本当なの。そいつはおめでとう。それにしてもお蔭様はないなあ。だって僕は一票も入れなかったもの――」
「えっ?先生は一票も?それはないや。だって僕は絶対入れてくれると思ったもん」
どうも正直な男である。明らさまにがっかりした風を見せたものの、思いなおした様に、
「まあ、しょうがないや。でも真先に電話したんですよ。きっと喜んで貰えると思って――」
「そいつは光栄の至りだ。とにかく良かったね。一応断っとくけどね、あとがきみたいな所に一票を入れないのを心残りだと書いた筈だから読んでおきなさいよ。それに今回はね今迄と違って新しい人達の仕事を高く買ったんで、オマサン達の様なベテランは遠慮して貰ったつもりだから――。それに大体知り過ぎた男は何となく入れにくいものなんだよ。」
といった具合で、言訳ともつかぬ弁でお祝いを言ったものだった。
何せ「ブロー・アップ」のライナー・ノートの一翼を担った一人としては嬉しくない筈はないのだし、実際あのレコードは、とにかく「ゴキゲン」だ。それにしても一人でも多くの人に聴いて欲しいと思い乍ら書いた作品が、予期以上の反響を呼んで本当に良かったと思う。
その点では、権威ある牧芳雄氏が、「このレコードが、もし日本ジャズ・ジャンルでトップにランクされることがあれば、それは日本のジャズ・クリティシズムの健在を意味する」と書かれたのは、「ブロー・アップ」に対する強い愛着の現われであろうし、温厚な氏にしては珍らしい程の強烈な訴えかけに率直な感動を覚えたのだった。それから半年を経て「ジャズ評論の良識」というよりは、むしろ「ジャズ・ファンの確かな耳」を、あらためて感銘づけられる結果を生んだのは、何よりの喜びなのだ。