“リタ・ライスの初期の傑作の再発を歓迎しよう”
(T)初めに余談を―――:
本来このレコードのライナー・ノートは、ヴォーカル・ファン(私もその一人であるが)にとっては、ごきげんな「フォノグラム・ジャズ・ヴォーカル・シリーズ」を監修しておられる青木啓氏が担当される筈であった。所が「ニューポート・ジャズフェスティバル・イン・ニューヨーク」をお聴きになるためだと思うが、急に渡米される事になり止むなく、私に白羽の矢が立ったという訳である。ディレクター氏によれば、青木氏は、「このライナーは内田さんにお願いする様に」と言われて、さっそうと旅立たれたとのお話であるが、もしそれが事実とすれば大変光栄な事だ。がしかし、よく考えて見ると何せ青木氏はジャズ・ヴォーカルに関しては専門というにふさわしい権威者であるし、おまけに数多くのファンは氏の解説を期待し、又楽しみにしておられるに違いない。その上、このレコードを買われる様な方は、ヴォーカルに関しては私なんぞより数等詳しい人達が殆んどであるから、いやはやとんだ代役をお引受けしてしまったもんだわいと大後悔したのである。そこで私なりに、この御指名の真意について考えめぐらすと、
[1]どうやら以前しばしば、ヨーロッパをうろつきまわって、その度に各地のジャズ・クラブにもぐり込んだ経験がある事
[2]そんな時、偶然見つけたオランダCBSアルトーン・レコードのアン・バートンにすっかり、しびれて帰国後同系のCBSソニーから発売する様働きかけて、それが予期以上の好評を受け、更に図々しくもそのライナーを書いてしまった事。
[3]もう一つ、スイング・ジャーナル72年2月号の「海外ニューディスク欄」に、リタ・ライスの旧作について、少しばかり紹介の駄文を書き連ねた事
―――等が、その理由であろうと考えられたのである。そこで意を決して筆をすすめる訳だが、まあ、うるさ方からのお叱りをこうむらないための予防線は、この位にしておいて、ともかくも本文に入らせて頂く事にしよう。